クローズド・サークル

私はミステリー・ファンである。
特に高校時代にはイギリスの作家アガサ・クリスティー推理小説の全作品を読破するほど夢中で読んだ。
他にフランスの推理作家ジョルジュ・シムノンメグレ警視シリーズも大体読んだ。
アニメ『名探偵コナン』の映像に
「ポワロ」という名前のお店が出てきたり、
アガサ博士やメグレ警部という人物が出てくると、高校時代に
胸をときめかせながら推理小説に明け暮れていたことを思い出す。


アガサ・クリスティーの代表作として、真っ先に思い浮かぶのは、『アクロイド殺人事件』と『そして誰もいなくなった』であろう。
前者は名探偵エルキュール・ポワロの名を一躍有名にし、クリスティーの名を不動のものにした本格ミステリーである。
後者の『そして誰もいなくなった』は本格ミステリーというよりもスリルとサスペンスに
満ち溢れた異色の作品である。
ミステリー用語に「closed circle(クローズド・サークル)」という言葉がある。
文字通り「閉ざされた範囲」であり、外部との往来や情報が遮断された状況下の、
広義の密室で起きる事件のことを指す。
クリスティーの作品の中では、クローズド・サークルの代表作として、『オリエント急行殺人事件』と『そして誰もいなくなった』が思い浮かぶ。
オリエント急行殺人事件』は雪に閉ざされた列車内で起きた殺人事件で、名探偵ポワロの名推理で事件の真相が明らかにされる。
そして誰もいなくなった』は、孤島の屋敷に招待された10人が次々と殺されていく。
どちらも犯人は閉ざされた内部にいる者である。
連合赤軍事件もある種のクローズド・サークルのように思う。
山岳ベース事件では雪で閉ざされた山小屋で仲間が次々と命を奪われていく。

「サークル(circle)」には「仲間」という意味もある。
連合赤軍は、外部との往来はあったものの、アジトという閉ざされた場所で、限られた
仲間同士が殺人を犯していった。クローズド・サークルのミステリーと共通点がある。
ただし『オリエント急行殺人事件』や『そして誰もいなくなった』は殺人事件といえども
あくまでも小説だ。ポワロの言う「灰色の脳細胞を働かせながら」犯人像を推理できる。
しかし連合赤軍事件は実際に起きた事実である。
「事実は小説より奇なり」・・・これほど凄惨な事件が本当にあったとは。
事実であるからミステリーよりもはるかに恐ろしく、忘れられない事実である。