最高のピアニストへ  Happy birthday

音楽の演奏を聴くと、アーティストの名前がすぐに分かる奏者がいる。
たとえばバイオリンなら、曲のはじめの音を聴いただけでユーディ・メニューインが弾いている、と、すぐに分かる。
この世のものとは思えない美しい音色を奏でるメニューインのような偉大なバイオリニストはもう二度と現れないだろうと思う。
また、演奏家にとって得意とする作曲家がいるようだ。
ホロヴィッツが弾くリストは他のどんなピアニストにはないホロヴィッツでなければ奏でられない音色を感じる。
特にホロヴィッツが弾いたリストの『ハンガリア狂詩曲第6番』は、その壮麗な演奏に身震いするほど感動した。
同じようなことがショパンに関しても言える。
ショパンの曲はクリスティアン・ツィマーマン氏の演奏が最高だ、と私はそう思っている。
ショパンと同郷のポーランドの出身者であることも少なからず影響していると感じている。
私は一度だけツィマーマン氏のコンサートに行ってサインをいただいたことがあった。
まだ今のような立派な髭を蓄える前の若々しさと純粋さがあふれた新鮮な演奏が印象的だった。
目の前でサインをいただけて非常に感動したことや、その長くて頑丈そうな手指の大きさに圧倒させられた。
フィギュアスケート羽生結弦選手のショートプログラムの曲に、
ショパンの『バラード第1番』が選曲された。
初めてその曲を聴いた時、テンポや間の取り方や強弱の曲奏がツィマーマン氏の演奏のようだと思って、羽生選手には失礼だが、演技よりも流れるピアノ曲に聴き入ってしまった。
ツィマーマン氏の演奏だと確信したのは、曲のコーダ(終結部)と最後の両手のオクターブで半音階ずつ下降する奏法だ。
これはまぎれもなくクリスティアン・ツィマーマン氏の弾き方だ。
それに悔しさや無念さをにじませた演奏は同じポーランド出身者でないと分からない共通の感性を持ったツィマーマン氏だからこそ奏でられるものだ。
羽生結弦選手はよくぞショパンの最高の曲と言われている『バラード第1番』を選曲された。
しかも演奏者はクリスティアン・ツィマーマン氏である。

羽生結弦選手には最高のピアニストがついているからきっと最高の演技ができると思っている。
今日はクリスティアン・ツィマーマン氏の誕生日だ。
ツィマーマン氏の数々の素晴らしいピアノ曲を聴くたびに、まるで本物のショパンが弾いているかのようなポーランド魂を感じさせてくれる演奏が印象深い。
クリスティアン・ツィマーマン氏に誕生日の祝福をしたい。
もし機会があれば、また来日した時に、ますます円熟した深みのある演奏を聴きに行きたい。