作品は残る


ロシアの民話『石の花』の登場人物で、孔雀石の名工が、「人は死ぬが作品は残る」と
言う場面がある。
今は亡き思い出深い人が残した遺品には、生前の人柄が偲ばれる思いがするだけでなく、まるでその人に会っているかのような気持ちになる。
寺岡恒一さんの魚拓に出会えたのは、つい先週のことであった。
魚拓を見せていただくと、作品だけではなく寺岡恒一さんにも出会えたように思えてくる。
アイゴは紀伊半島や四国に生息する体長30センチくらいの魚で、ひれに毒針を持つ危険な魚である。
そんな危険を伴う魚を釣り上げて、さぞかし嬉しくて記念に残しておきたかったのだろうと想像した。

連合赤軍事件から41年が過ぎた。
寺岡恒一さんは最も凄惨な手口で命を奪われた。
しかし魚拓は今でも恒一さんの部屋の壁に掛けられて残っている。
連合赤軍事件を知り、寺岡恒一さんのお母様に手紙を差し上げてから20年の時が過ぎた今、よくこの作品に出会えたものだと、非常に感慨深い思いが込み上げてくる。
遺品となった魚拓は今でも生きて何かを語りかけてくれるものだということを。