あの世からの賓客

去年の4月下旬のこと、
寺岡恒一役を演じた佐生有語氏から、
恒一さんの墓参と、お母様にお会いする決心がついたとの連絡があり、信じられないほど嬉しく思った。
お忙しい合間を縫って私のような一個人の願いを聞き届けていただけるなんて、素晴らしいかただと思った。
その日は好天に恵まれ、墓地も新緑に彩られ始めた頃だった。
瞑想する僧侶のように、恒一さんのお墓の前でしばらく佇んでいらした佐生氏は、
どんなことを考えていらしたのだろうか?
その後、寺岡さんのご自宅でお母様にご対面なさって、映画に出演した時のことや、
当時のことを詳しく調べていらしたことなどをお話しなされていた。
佐生有語氏と恒一さんは、背格好も血液型も同じで、寺岡さんのお母様は非常にお喜びになられたご様子だった。
今、本当に恒一さんが帰ってきたようだとおっしゃっていたのが印象的だった。
「俳優は、あの世から遣わされた賓客(まろうど)」という言葉のとおり、
俳優は現世と来世を繋ぐ役も果たすことができることを佐生氏から学んだ。
この日のことは、まるで映画のワンシーンのようであった。
この日は私にとっても、生涯思い出深い忘れられない日と、なり得た。
恒一さんのお母様にとって、そして私にとって、
佐生有語氏は、ずっと主役として記憶の中に登場することであろう。
素晴らしい感慨無量な時間を授けてくださった佐生有語氏に、
この場を借りて心からお礼を申し上げたい。