潮時 There is the tide

"There is the tide in the affairs of men,
Which taken at the flood, leads on to fortune,
Omitted, all the voyage of their life
Is bound in shallows and in miseries."
-W.Shakespeare- "Julius Caesar"(ActⅣ,SceneⅢ)
「人の行動には潮時というものがある。
うまく満潮に乗れば幸運が開けるが、
それに乗りそこなったら人の世のすべての船旅はきっと浅瀬に乗り上げ災難に見舞われてしまうだろう。」 シェイクスピアジュリアス・シーザー』(第4幕3場)


何か事を始める時、今すぐ行動を起こした方が良い時もあれば、
逆に今は事を進めず、時期が来るのを待っている方が良い場合もある。

今から21年前、何気なく目にした連合赤軍事件の新聞記事で寺岡恒一という活動家を知った。その顔が私のかつての恋人の遺影と重なって見えた。
それが連合赤軍事件を知り、さらには恒一さんのお母様にお手紙を差し上げるきっかけとなった。
あの当時、手紙のやりとりは数ヶ月ほど続いたが、ある日「つらい過去を思い出し乱筆乱文になり失礼しました」「どうかご放念下さい」と、書かれた手紙を受け取った。
その日を境に手紙が来なくなった。
その文面から察して、もうこれ以上寺岡恒一さんのお母様には手紙を出すべきではないと思った。
私が手紙を差し出せば必然的にあの事件を思い起こすことになり、つらい過去がよみがえってやりきれない思いが募るだけだ。
寺岡さんにはもうこれ以上踏み込んではならない心の領域を感じた。

寺岡さんとの文通が途絶えてから15年が過ぎ、あの映画『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』が公開された。
恒一さんのお母様はお元気でいらっしゃるだろうか、と思って再び連絡を取り、あの当時の接点が復旧した。
それだけでなく、やっとお会いすることができた。
21年前はお会いするまでには至らなかった。まだ時が許さなかったのだと思う。
潮が満ちることもあれば引く時もある。人の行動にも潮の干満に似た波があるようだ。
順調に行く場合もあれば、逆にいくら努力しても全てが裏目に出ることもある。
自力では切り開けない運命の潮流を感じる。


潮が奏でるリズムは月が指揮している。
明日は満月だ。時機に乗じた行動をとりたいものである。


「熟田津に船乗りせむと月待てば 潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな」(額田王
"At Nikitatsu
Our ship ready to depart,
Awaiting the moon.
A favouring tide's here too-
Now to the oars, row row, row ! " Nukata-no Okimi(? 7c.)