揺れない時空で

3月11日の東日本大震災と連日の余震で、
すっかりくじけてしまった私は、少しでも揺れない時間を
過ごしたいと思って、4月の連休前半に比叡山を訪れた。
延暦寺の宿坊に泊まることにしたが、
その動機は宿坊の精進料理が盛られた朱塗りの応量器が
見事なのに惹かれて、一度でいいから是非あのような
和食器で食事を味わってみたいという風変わりなものであった。
もちろん揺れない時間がほしかったことが一番の理由だった。
比叡山で、初めて琵琶湖を見ることができた。
以前、琵琶湖を訪ねる計画があったが病気で断念したため、やっと念願が叶い、
日本一の湖が見られて嬉しかった。
比叡山から見下ろす琵琶湖の景色は非常に素晴らしくて感激した。
延暦寺には宗派を超えた数々の高僧が修行に入山していたことが分かり、あらためてその度量の大きさに感動した。
最澄親鸞法然道元ら名だたる高僧も、この地で琵琶湖を眺めていたのだろうかと思いを巡らせた。


やがて日没になり、琵琶湖周辺の夜景が輝いて見えてきれいだった。
あの明かりの下ではどんな人々が暮らしているのだろうかと思いを馳せながら、
時が経つのを忘れて琵琶湖の夜景に見入っていた。
きっとここには地震津波など来ないのであろう。
久々に揺れない日々を過ごせて、少しずつ元気を取り戻していくようであった。
こんな体験ができること自体がありがたく思えた。