犯人

子どもの頃、テレビで重信房子の顔を見た。
あの当時26歳だった重信房子は、日本赤軍の国際テロ組織の
リーダーで指名手配犯だった。
まっすぐ伸びた長い黒髪…こちらを見つめる大きな目…
きれいなおねえさんだと思った。
でもあの女の人は「犯人」と言われ、「重信房子」と呼び捨てで
呼ばれているから「悪い人」だ。
あのおねえさんはどんな悪いことをしたのだろうか、と
子どもながらに疑問に思ったことを覚えている。
連合赤軍事件当時、私は小学生だったが、事件についての記憶は無く、ただ、

どこか山の中で恐ろしいことが起きたらしい、としか覚えていない。
事件から21年後に最高裁で、永田洋子坂口弘に死刑判決が確定した時に、
当時の新聞記事で見た寺岡恒一の写真に私の亡き恋人の面影を重ねて見る思いがしてからこの事件と関わるようになった。
あの当時は今のように「容疑者」とは呼ばれず、「犯人」と言われ、名前も呼び捨てだった。当時の新聞記事でリンチで犠牲になったメンバーも全員が呼び捨てにされているから、指名手配中の「犯人」であり「悪い人」であった。
重信房子は大腸癌が進行して八王子の医療刑務所に収監されたそうだ。
奇しくもそこには同じく脳腫瘍で危篤状態の永田洋子も収監されている。
この2人の女性リーダーが社会運動家になった当初の動機は女性の社会的地位向上を願ってのことだった。しかし永田洋子は多くの仲間を凄惨なリンチで命を奪った殺人犯に、重信房子は海外で凶悪なテロリストになって犯罪を繰り返した。
彼女たちはお互いのことをどう思っていたのだろうか?
同じ動機で活動家になった2人の女性リーダーは、今同じ場所で共に癌と戦っている。
何と奇遇な巡り合わせだろうか。