負けるが勝ち

学校の水槽でヤマメの稚魚が飼育されている。
冬の間飼育して、少し大きくなったら近くの川に放流する予定だ。
川の清流で生きるヤマメと、海に住むサクラマス
同じ卵から生まれたサケ科の魚である。
ヤマメは川の流れに身を潜めて、流下する水生昆虫や河畔林から落下する虫を捕らえる待ち伏せ型の捕食方法をとる魚である。
流れてくる虫を、いち早く捕らえるために、条件の良い場所を巡って熾烈ななわばり争いが繰り広げられる。
なわばりを確保したヤマメは川の流れの先頭に陣取って、流れてくる獲物を独占する。
一方なわばり争いに敗れたヤマメは海に追いやられ、これらがサクラマスとなる。
「勝ち組」として川にとどまることができたヤマメの体長は約20センチなのに対して、
川での生存競争に敗れ、「負け組」となって海へ逃れたサクラマスは約40センチから
大きいものでは70センチに成長する。
海で回遊魚として生きてきたサクラマスも、やがて産卵期になると、
生まれ育った川に戻ってくる。
そしてヤマメは自分よりもはるかに大きなサクラマスと産卵場所を巡って争うことになる。
より良い産卵場所を確保できるのは断然サクラマスの方であろう。
学校にいるヤマメの稚魚は、まだ自分で獲物を捕食できないが、やがて川に放流される。「勝ち組」のヤマメとして川で生きられるのはどれほどの割合なのだろうか。
もし「負け組」となっても、海でサクラマスとして生きる道もあろう。
どちらの生き方もそれぞれに良い。