亡霊

私の職場の学校がある場所は古戦場だった。
本当かどうか分からないが、学校周辺で甲冑姿の
武将の亡霊が出るそうだ。
私は生まれてこのかた、まだ一度も亡霊というものを見たことがない。
しかし、俳優の佐生有語氏には亡霊が見えるらしい。
映画『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』で寺岡恒一役を演じた佐生有語氏は、
映画に出演した当初について、開口一番「寒かった」とおっしゃっていた。
連合赤軍事件が起きた時と同じ厳寒期に撮影が行われたそうだ。
出演者全員が実在の人物になりきって死に物狂いで役に徹したのだそうだ。
佐生有語氏はロケ地の宿舎で休んでいる時に
寺岡恒一の亡霊に出会った。
部屋の片隅で寺岡恒一が正座して現れたのだそうだ。
佐生氏が「あなたの役は僕が引き受けたから」と言ったら寺岡恒一は消えたのだという。
何だか映画を見ているような話が聞けて不思議な気持ちになった。
亡霊が見えるのは、自分の心の内面を表す一種の心理状態のような気がする。
佐生有語氏のところに寺岡恒一の亡霊が現れたのは、佐生氏が映画の中で
寺岡恒一自身の役になりきって、その心情に応えるために真剣に役に取り組もうとする
気持ちの表れではないだろうか。それともあの世の寺岡恒一が佐生有語氏にどうしても伝えたかったことがあったのか、その真意は分からない。
正に俳優はあの世から遣わされた賓客と呼ぶにふさわしい出来事である。
亡霊は、純真な心を持つ人にしか見えないと言われている。
そんな純真な佐生有語氏が寺岡恒一役を引き受けてくださって、
そのおかげで遺族のかたと接点を持つことができて、感謝の一語に尽きる。
私も一度でいいから亡霊を見てみたいものだ。


写真上:映画『実録連合赤軍あさま山荘への道程』
写真下:遺影の寺岡恒一と対面する佐生有語